漫画「ハード&ルーズ」が連載されていた頃、日本は「世界第2位の経済大国」「ジャパン アズ ナンバーワン」「政治は三流でも経済は一流」と調子に乗っていた。
東京の一角ではビジネスマンたちが仕事終わりに道場に通って汗を流しているが、主人公の私立探偵はそれを見ても決して前向きに捉えてはいない。
帰宅後、シャドーボクシングをしながらこう呟く。
前段のところは80年代から世界を席巻し始める「新自由主義」を思い出す。87年4月には国鉄がJRに民営化した。地方のローカル線は赤字を理由に廃線となっていった。
90年代に入るとバブル経済が崩壊してデフレ経済に突入。それでも日本は新自由主義を見直すことなく、外資や大企業を優遇し、前提としていたはずのトリクルダウンがないため非正規雇用の窮乏は加速した。
問題は後段にもある。
すでに80年代には広岡達郎式管理野球が一般化しており、この作者が推すボブ・マーレイや忌野清志郎など魂で歌う側は劣勢を強いられていた。
そんな管理社会の次はどうなるのか? 上記漫画のような洗脳の光景が更に拡大するとも読み取れる。しかし、まだこの当時は部分的に過ぎなかった。
そう言い切れるのは、1998年3月から急に東京の中央線で投身自殺が増え始めたとき、JRはまだ対処方法が確立しておらず、今では信じられないことだが一切車内広報しないまま何時間も、長い時には4時間以上も電車が立ち往生していたからだ。
イラ立った乗客が暴動を起こしたり、駅の場合は駅長室に雪崩れ込んでモノを投げたりする人もいた。再開が深夜1時になっても青梅線の終電が終わっていたので立川駅で茫然と立ち尽くす人もいた。
2001年7月の明石花火大会での雑踏事故をきっかけに警察が雑踏警備検定の教科書を作成、その中にこんな一節がある。
その頃にはJRもたとえ投身自殺があっても狼狽(うろた)えることなく繰り返し車内広報し、乗客もおとなしく待つことができるようになっていた。復旧も格段に早くなっており、30分もすると再開した。
政治の方では、小泉純一郎がこの広報ノウハウを悪用して「郵政民営化」というフレーズを連呼。総裁選を制して首相になると、郵政を民営化すると何でも良くなると洗脳された国民は自民党に大量得票を与えた。実際には膨大な郵便貯金を外資が狙っていたに過ぎず、売国奴の小泉竹中の悪評は今も消えない。
さて、現代はもう新自由主義は時代遅れになっており、小泉純一郎もどんなに吠え叫んでも過去の人となってしまっている。
民放ラジオを聴いていると「SDGs」という言葉をやたらと聞く。ジョン・レノンのイマジンをバックに17の目標を流す。繰り返し流す。
もはや利潤と効率を至上の価値とはしなくなったのだ。それはそれで良いことである。ただ、繰り返す広報を嫌になるほど耳にして洗脳されるかというと、誰もそう変わらないような気がしており、実現方法には疑問を感じる。