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(晴天) 時々キツネがバカす件

  どこまで史実か詳細は分からないが、北関東で藍作りに携わっていた若者2人が、激動の京にて次期将軍有力候補の一橋慶喜の家来になったことは事実である。

 

  この俄(にわか)には信じ難い出来事を視聴者に出来るだけ自然に受け入れてもらうために、ドラマでは先ず江戸で平岡円四郎と出会わせ、次に奥方やすに会わせて京に向かわせ、なかなか平岡に会ってもらえないという少しリアルっぽい苦難を味わせた後に不思議な縁で再会するように組み立てた。

 

  キーワードは前回から登場した「キツネ」である。

 

  横浜の外国人居留館焼き討ち計画の中心人物である尾高惇忠の実弟、長七郞はその計画を中止すべく京から駆けつけ、泣き顔で叫びながら何日もかけて必死で皆を説得して何とか中止させた。そんな自分を長七郞はキツネが憑依したと振り返った。訳の分からない強いエネルギーが自身に沸き上がったのだろう。

 

  そして今回、長七郞は栄一からの手紙で故郷を後にし、京に向かっている途中でまたもキツネの幻影を見、気が狂い誤って刀を抜いて旅人を斬り殺す事件を起こしてしまう。捕縛されて懐の手紙も幕吏の手に渡り、江戸の奉行から京の平岡のもとに追及の使いが来たため、政務で多忙の身ながらついに栄一たちを屋敷に招き入れ、改めて家来になれと命じた。後先なく切羽詰まっていた2人は受け入れるしかない。

 

  時代の転換期には、よく身分差を超えた主従関係が生まれて奇跡的な化学反応を起こすものだ。後醍醐天皇と河内の悪党楠木正成の場合も理解し難いからこそ太平記の作者は天皇の夢に植物の楠木が出てきたせいにしたが、それが10万の幕府軍に1500の手勢で挑ませ、ついに全国の武士を立ち上がらせ鎌倉幕府を倒した奇跡となった。戦国時代も百姓出身の秀吉が信長に見出されてついに天下人となった。

 

  将来「日本資本主義の父」と呼ばれることになる渋澤栄一が一介の藍商人から一橋家臣となるまでの経緯にも人知では計り知れない何かが介在し、それをドラマではキツネという霊的な呼称を使った。決して完璧な善玉の霊ではなく、諸星大二郎の作品(暗黒神話孔子暗黒伝など)に出てくるような生死的に残酷な面すらあるもっと超越した大きな霊と思う。

 

  お陰で栄一は出世の糸口を掴めたが、長七郞はその犠牲となった。可哀想だと思うが、現実というものもそんな善悪と無関係な残酷さがリアルなのかもしれない。

 

  誰しも時々こんなふうにキツネにバカされて道を踏み外したり逸れたりしそうになるが、弱い心や信心深さを封じ込めて理性や哲学で正道や中庸の道とは何か落ち着いて考えると、不可思議な方は何とか避けられたりはするものの、逆に奇跡を起こすことができず平凡なままに終わったりする。

 

  幕末も長男より次男や三男の単純な若者の方が志士や奇兵隊となって暴発したものだった。

 

  現代の転換期が少し長期化しかけているのも、人々がキツネにバカされにくくなっている面もある。それはそれで良いことであり、酔わない人々による自浄作用でビルドを起こすべきだと思う。

 

  ただ栄一本人は、平岡円四郎が一を聞いて十を知るような賢い人だったからこそ自分を見だし、かつ水戸の攘夷派の志士の手にかかったと後に振り返っている。