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拡大策の成功と失敗の決め手

  いま小松哲史著「主(あるじ)を七人替え候」を読んでいる。また藤堂高虎が主人公である。

 

  1人の歴史上の人物を知るのに何冊も読む手法は、見方の偏りを防いで全貌を知るためでもあるが、結局アタリハズレが大きかったりもする。立花宗茂も5冊ほど読んだが個人的には1冊目が(格好いい)父高橋紹運の代から始まり宗茂が東北への左遷から幕府のご意見番復権する最後まで丁寧に描かれてアタリだった。他の本は九州や朝鮮での活躍がメインで絞り過ぎていた。

 

  高虎の場合、まずは無難な火坂雅志から読むことにした。歴史小説的には書き方がこなれていて読みやすいが、その分、架空の脇役が多く、またピンチに現れるヒーローのような場面も多い。それはそれで面白いが、実際はどうなんだろうと思ってしまう。秀長が賊に囲まれた時に現れて家臣になるし、京都では家康が賊に囲まれた時も高虎が現れて助けたりする。

 

  「主の・・」作者、小松哲史は本来歴史小説家ではなく、記者や塾経営などを経ており、この本の書き方もビジネスマン向けを意識していたという。会話場面と背景の解説場面がアンバランスで書き慣れていない感じはあるが、それはそれで新鮮だった。

 

  特に目を引いたのが羽柴秀吉の毛利攻めの際に、別動隊として但馬方面に進軍していた弟の羽柴秀長に突然中止命令を下したところである。たった20日間で竹田城をはじめ諸城を落とし勢いに乗っていた藤堂高虎は納得しないが、秀長はこうたしなめた。

 

  「もし豊尾峠を越えて山名祐豊と戦っている時に播磨で何か起こったらどうする?」

  「ただちに引き返すべきでしょう」

  「そうだ。だが山名と戦っていれば撤退できない」

  羽柴軍は占領軍だから地元国人衆の反感が強い。撤退する途中でゲリラ的に襲ってくることも予想しなければならない。

 

  筆者がそこに付け加えるなら、山名は但馬守護の筋とはいえ衰えて勢いはなく、だから国人衆が強いのだが、戦えば山名には勝てるが、戦わずとも背後を追ってくることもない。

 

  秀吉と秀長は播磨と但馬との間に道を整え、生野銀山で採掘した銀で作業に関わった民を潤し、また調略や兵の募集などに使い、これで長期戦を可能にしたという。

 

  遠征の際に戦線が長く延びきって兵站が難しくなり、そこを急襲されて遠征が失敗する例は数多い。越後の上杉謙信も北条討伐で関東入りした時も小田原から撤退を余儀なくされた。三國志でも劉備玄徳が義弟関羽の弔い合戦で呉へ進軍した際にこれで失敗して亡くなった。

 

  現代の場合、やはり拡大したいから力をつけた中小企業が無理に新しい営業拠点を作ったりするが、結局それらとの連携がうまく取れず、失敗する例をよく見る。経営者と幹部たちは絶対に浅はかさを認めようとしないが、延びきった戦線が寸断されて各拠点が孤立し、始めから拡大しなければ良かったのにと誰もが見ている。

 

  それでも拡大して繁栄したいなら、秀吉と秀長が成功したように、各拠点間の連携を太くし、カネを大量投入するべきである。早い話がケチケチせず、給料を上げろということ。

 

  日本は30年間も給料が上がらず、先進国の中でワーストクラスだということは既に有名だが、実際は給料を上げないまま戦線拡大しようとしていたからである。納得いかず辞める人は慰留せず、空いたポストに若手の地位を上げることで応じ、トップや幹部たちは安泰のまま。結局は拡大せず、育てた人材は消えて残った人材は小粒ばかり。

 

  過去の失敗例を分析して戦線拡大を成功させた功労者は秀吉の参謀である半兵衛だと思うが、やがて三木城戦の間に病没して後も官兵衛がしっかり受け継ぎ、秀吉を天下人に押し上げた。

 

  日本の人材不足は上記以外にも政治分野が最も深刻で、与党内に菅の後任が見当たらないし、野党も消費税反対と小粒なことしか言わない。大胆に令和の所得倍増を唱える人がもしいれば、予算の根本的な見直しから老害排除や議員定数削減、少子化改善や新規産業育成などマトモなことを行うだろう。

 

  いない訳がない。知らないだけだと思っている。五輪だっていざ始まってみるとたくさんの感動が輩出している。