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(ドラマ) 西島秀俊は二重に演技できる俳優

 今から10年前の2011年10月、ドラマ「僕とスターの99日」初回オープニングで、主演の警備員役をつとめた西島秀俊という俳優を初めて見た時、これは将来大物になると直感したものだった。

 

 20代の頃に事務所が求めるアイドル路線と本人が志向する本格俳優路線とソリが合わず移籍、途端に業界のオキテでテレビ出演がパッタリとなくなった。映画に少しずつ出ているうちにまた注目されるようになり、やがてこのドラマでいきなり主演ということになった。

 

 倍賞美津子社長が経営する警備会社で、来日する韓国の大女優(キム・テヒ)のボディ・ガードをつけることになり、そこで天文好きで女性に全く興味がなさそうな西島に制服を脱いでスーツを着てもらうことにした・・・が、いろいろゴタゴタが起こる中で恋愛へ・・・という設定である。

 

 女優の相手役の大物モテモテ現役俳優、つまり警備員西島のライバルとなる男を佐々木蔵之介、西島とテヒをパパラッチするカメラマンを要潤、と今見ると贅沢なラインアップ、ドラマレビューも決して悪くない。

 

 真面目な目、真面目な顔で退屈なボディ・ガードをつとめ、ホテルの部屋のドア外でじっと立つことから女優に「サボテン」というあだ名をつけられるのも西島こそだと思う。本当は住んでいるボロ長屋のような家の屋根にある物干し台で何時間でも望遠鏡を覗いて好きな天文観察をしたいのにボディ・ガードでなかなかできない。天文学者になる夢を果たせずアルバイト生活を送る独身30代。

 

 ・・・翌年、更に西島秀俊に転機が訪れる。名作ドラマ「ダブルフェイス」への主演である。

 

 キャッチコピーは「ヤクザの幹部、実は潜入捜査官」、「エリート警察官、実はヤクザの潜入員」。

 

 その後、共演が多くなる香川照之は「エリート警察官、実はヤクザの潜入員」で、西島は「ヤクザの幹部、実は潜入捜査官」の方を演じる。

 

 とにかく面白くて3回は視たが、初共演のこの2人もお互いを認め合い、ピンの時よりも凄い化学反応が起きるという。最近は松潤主演の「99.9」でどちらも弁護士役で出演している。

 

 例えば芸人がドラマに出る場合、鶴瓶でも昇太でも人志でもその役になりきることがせいぜいである。これは普通の下っ端俳優も同じ。

 

 しかし演技上手な俳優は、裏に全く別な顔、全く別な生活を同時並行で演じつつ、表の顔も完璧に演じられる。西島の場合、表のボディ・ガードと裏の天体観測好きとが違和感ないし、表のヤクザと裏の警察官にも違和感ない。

 

 薄暗いヤクザ事務所のど真ん中で、組長から頼りにされている幹部の西島が周りに気付かれないよう無表情で怪我をして石膏を巻いた片手にトンツートンとモールス信号で警察に送信するシーンは圧巻だった。受信する警察内の香川照之が実はヤクザで、拾われて組長に育てられていたので、情報がダダモレなことに気付く訳だが。

 

 2013年のグランプリを受賞した。そういえば香川も大物歌舞伎俳優の血筋ながら認知されず、東大を出て俳優、そして歌舞伎復帰と異色の経歴の持ち主でもある。まさに2人とも紆余曲折に満ちた苦労人である。