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マテオ・ファルコネと現代社会

 20年前にある財界雑誌の対談の中で、社長同士が「マテオ・ファルコネ、あれはいいね」「確かに、あれはいい」と盛り上がっている作品を知った。1人は東京電電の平岩外史会長だった。

 

 「カルメン」の作家としても知られるプロスペル・メリメの短編作品集「エトルリヤの壺」(岩波文庫)の中にそれはあった。詳細は実際に読んだ方が良いが、ネット上でも知ることはできる。

 

 作者のメリメはあるとき、地中海の一地方で起きた元マフィアの男が息子を処刑した事件を知って興味を持ち、それを作品にした。社長たちはそのどこを評価したのか。人命をあまりに軽んじた話で、読後はどうも違和感しかなかった。 

 

 20年後、仕事で敵前逃亡した部下を捕まえて目の前にした。戦争なら即銃殺刑とウィキペディアにもある。本人は敵の大軍を前に逃げることは悪くないと思っている。しかし全員が向かっていく中では、やはり公開処刑しかないように思う。

 

 ただ現代社会は、働きは悪いのに有給を申請する人が多く、敵前逃亡の予備軍はまだまだ多いと思う。公開処刑に効果はないかもしれない。マテオ・ファルコネは、それが一人息子であっても木にくくりつけた。そして「祈れ」と言って引鉄を引いた。泣きわめいて反省しても聞かなかった。

 

 そんな価値観を平岩は評価したが、日本経済の成長期は終わり、今や顧みられなくなった。しかし、大勝負を前にしては再び、この価値観を必要としなければならないような気がする。