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秘密の領域

  秋にTwitterや各ブログに連載した「4コマ哲学史」の中でも、ハイデガーは一番の難所だった。

 

  多忙な中で改めて原著や解説書を読む時間はないので、過去に読んだ書籍の読み直しでまとめることにした。

 

  といってもハイデガー哲学の全てを4コマに収まり難いので、強く印象に残った言葉やエピソードをつなげることにした。

 

  結果、上3コマまではなんとかつながったが、4コマ目に不満が残った。

 

  オチはまだマシなのだが…、オチにつながる「物が物であるためには、秘密の領域がなければならない」という箇所に唐突さを感じる。

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  「哲学思想コーパス事典」の「放下」に載っていた言葉で、その引用先については今のところ分からず、図書館やネットで探したが分からない。

 

  とはいっても重要な言葉に見える。

 

  ずっと心に引っかかったままでいたが、最近なんとなく、こういう事なんだなと見えてきた。

 

1. まず、逆に“秘密の領域がない”ものを仮定する。

 

2. 道端の石ころでも空気でもいい。

 

3. ハイデガーの「世界内存在」での世界とは物理的ではなく、見聞きするコミュニケーションとしての世界のこと。

 

4. したがって、“秘密の領域がない”石ころは存在しないことになる。

 

5. 科学が発展した現代では石ころも空気も対象たり得るが、科学が発展していなかった昔は特にそうなる。

 

6. しかし、昔とてその石ころに何か特別な思い出や逸話があると世界内存在する。

 

7. ひるがえって近代、産業化が進む中で人々はネジや歯車の1つなって実存的に弱くなっており、キルケゴールニーチェ等の実存主義哲学者は没頭できる何かを持った生き方を提唱した。

 

8. 生前は2人とも報われない人生だったが、死後に彼らを高く評価したハイデガーは、その上で実存主義の更に先に存在論を位置づけた。

 

9. 実存的生き方の主が、世界内存在するためには、“秘密の領域”をもつ。

 

10. すると人々は、秘密を知ろうと見聞きして関心を持って調べる。

 

11. キルケゴールは誰にも理解されないまま道で倒れて亡くなった。デンマークの人々にとって生前の彼に秘密の領域はなく、変わり者に過ぎなかった。

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12. 生前のニーチェも同様に、ちょっと危なっかしい移り気な人と見られ孤立し、発狂して亡くなった。ハイデガー哲学史上の意義を2人に与えてようやく世界に加わった。


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13. 「物が物であるためには秘密の領域がなければならない」を実現する手段として“表彰”がある。表彰されれば、人々は「なぜ選ばれたのだろう?」と目を向け、秘密の領域が膨らむ。

 

14. ただし“実存主義の完成者”サルトルは、ノーベル賞を与えると言われても辞退した。そんな方式で世界内存在することを拒否した。


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15.  サルトルなりのアンガージュマン(社会参加)は4コマ目で完成した。

 

  以上、実存主義哲学の歴史を振り返った。最後に我々の学ぶべきところだが、自分自身もキルケゴールニーチェのような形で終わってしまいそうなので、それを語ることは難しい。

 

  身内や職場の範囲内での「秘密の領域」をせいぜい維持している。「最近どう?」と。