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次のシンゾウとなる政治家はいない

  安倍元総理が亡くなった件、様々な意見がネット上に広がっているが、ここでは本ブログならではの話に絞って書いていきたい。

 

 先ず、日本の首相になるには“派閥の長”か“政治家一家の血筋”か、あるいは“新しい方向性を提唱する人”の3タイプのうち、どれかに当たる場合が多い。

 

  以前これを「ドン・キシュ(貴種)・ラビ」と呼んだ。

 

  例えば田中角栄はドン型、小泉純一郎郵政民営化でラビ型である。

 

  第一次安倍晋三政権の場合は、岸信介安倍晋太郎の血筋だから早く出世したに過ぎない、典型的なキシュ型だった。

 

  そんな見られ方を少しでも払拭したかったのか、安倍総理は「美しい国 日本」(ラビ型)を連呼した。

 

  しかし、小泉郵政民営化の時ほどブームを起こさずスべってしまい、最後は病気を理由にあっさり退陣した。

 

  その後、鳩山・菅・野田による「コンクリートから人へ」の政権交代となったとき、新ビジョンの具体性の無さも相まって国民の不安が増大し、下野した自民党への、安倍晋三への期待が逆に高まった。

 

  そして第二次安倍政権誕生。

 

  もはや「美しい国」は封印し、新たに「アベノミクス」を掲げてこれがいちおう成功した。

 

  後になってアベノミクスは姑息な帳簿改竄によるものとバレているが、当時の国民はこれで経済が上向くと本気で信じ、安倍総理も嘘を承知で夢を見させた。五輪も誘致した。

 

  安定感は確かにあり、それが歴代最長の政権運営となったが、他に与野党ともライバルがいないことの裏返しでもある。

 

  そしてコロナ禍。秘書の提案に乗ってアベノマスクを配布したが、小さ過ぎて誰も使わず(使用者は安倍氏だけ)、もう嫌になったのか、最長記録を達成したところでまたも病気を理由にあっさり退陣した。

 

  こう見てくると貴種ならではの甘やかされ坊ちゃんという側面が強い。同じキシュタイプである日本新党細川護煕も名家の子孫ですぐに首相になり、あっさり投げ出した。

 

  しかし、次の菅総理が華がなく不人気、その次の岸田総理も地味(田舎の軽トラ乗りに近い印象)で、再び安倍晋三待望論が蠢き始めた。

 

  本人も自覚があるのだろう。元総理ならもっと悠然と過ごせばいいのに、参院選で他の議員と同じように最前線で応援演説に駆けて回った。

 

  その頃には、自民党内でも最大の影響力の持ち主になっており、また改憲再軍備を唱える第一線の論客ともなっており、ただのキシュ型だった安倍はもう遥か過去の話、今やドン型、ラビ型をも併せ持つ最強の政治家となりつつあった。

 

  ドン・キシュ・ラビの全てを持つ安倍晋三が第三次安倍内閣を組閣し、そこには公明党だけでなく、維新や参政党、国民新党も閣外協力し、念願の再軍備を含む改憲を実施する日もそう遠くないと思われた。

 

  岡山での遊説を終えて次は長野の予定だったが、文春砲により長野の候補者にスキャンダルが発覚したため、長野を麻生に任せて自分は奈良の遊説に変更した。

 

  西大寺駅前は慣れた遊説場所だった。いつものようにガードレールに囲まれた場所に立って応援演説を始める。平日の昼間、人口もそう多くない町だが、党員関係者に動員をかけて人だかりをつくる。その中には例のカルト宗教も入っていた。

 

  背中で1発の銃声。

 

  左へ振り向きざま更に2発目の銃声。

 

  銃弾が心臓を貫き、前のガードレールに倒れた。

 

  警護が男を取り押さえる。カルト宗教の被害者で、家族を崩壊された恨みを安倍氏にぶつけたという。

 

  警護の薄さを奈良県警のせいにする声が多いが、安倍氏自身、前に国会で辻元清美から警護を厚くするよう言われても「日本は安全な国なんです(そうだ!そうだ!と周囲)!」と全否定した動画が残っている。

 

  薄い警護を容認し、カルト宗教の危険性を黙認し、弁護士会から要請があっても関係を保ち続け、格差拡大を放置し、最後はこんな形で終わった。

 

  過去に同じ最期を迎えた国のトップがいたか探したものの、いない。井伊直弼でもない。

 

  悪政により生活に苦しんだ国民の1人が、手製の銃をつくって撃つ。国のトップとしては全く惨めな死に方である。 

 

  良い政治家ならリンカーンケネディのように国民のために尽くし、恨んだ旧悪側によって暗殺される。

 

  逆に旧悪を保護し、底辺の国民に撃たれる政治家。上述した不思議な偶然も考えると神罰が下ったと思われても当然だ。

  

  少し弁護するなら、外国からのウケがいいという擁護論もあるし、給料の3割に当たる73万円を毎月東日本被災地に送金していた美談もある。

 

  片や犯人の男も、母親がカルト宗教に1億円も献金し(叔父が5千万円を訴訟で取り返す)、病気の兄、そして妹のために海上自衛隊に入り、そこで保険金目当てに自殺未遂したという話もある。

 

  どちらも根っからの悪人ではない。悪いのはカルト宗教か? もちろんそうだが、日本や日本政治に彼らが入り込むスキがあったのは、

 

  日本に新ビジョンがなく、新ビジョンを探そうともせず、考えもしないその姿勢を根本的に改めないからであり、それが一番悪い。 

 

  兎にも角にも、安倍晋三がいなくなったこの状況で、次の晋三、いや心臓となる大物政治家もいないし、改憲再軍備が進むという見方には懐疑的である。