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(晴天) 欧米視察と井(せい)の卦

 大久保利通岩倉具視木戸孝允らとともに欧米視察に行った動機について、洋行帰りの役職者たちにこれ以上大きな顔をさせる訳にいかない、という視点は新鮮だった。

 

 洋行帰りの中には栄一たち元幕臣もいる。栄一はフランスだったが、イギリスを見た伊藤俊輔井上馨と気が合う。大久保は明治新政府がうまく進まない原因を見つめ直し、それは自分自身が欧米を知らないからだと考えた。

 

 易の64卦の中で井(せい)も好きな卦の1つだ。安岡正篤著「易と人生哲学」186頁には「物事が行き詰まり苦しくなった場合は、どうすればよいかという答えが、この井の卦であります」とある。

 

 「行き詰まって、どうにもならないときには、その事業、生活、人物そのものを掘り下げるより他によい方法がありません」

 「たとえば、井戸を掘りますと、初めはもちろん泥でありますが、それを掘り進めますと泥水が湧き出します。それを屈せず深く掘り下げると滾々として尽きない清水、水脈につきあたります。これが井の卦であります」

 

 前回紹介した噬盍(ぜいこう)は噬(か)み盍(あ)わす、咀嚼する、火雷噬盍なので、十分に考えるとは書いたが実はもっとちょこまかと動く卦で、篠原常一郎さんの告発についても各局や各人に検察が事務的に動いて咀嚼していると思われる。

 

 こちらの水風井は動かずよく考える方で、その前後の卦も面白い。

 

 井のすぐ前は澤(たく)水困(こん)で、困窮し苦しむ卦。まさに明治新政府のスタート時である。

 

 困の前は地風升(しょう)で“のぼる”意。

 

 升の前は澤地萃(すい)で“あつめる”意。どういう人材をあつめるとよいかという人材登用、抜擢、組織、行動の卦。抜萃(ばっすい)と使ったりする。  

 

 それでは井の後は何かというと、これも印象的な卦、澤火革の卦である。井が個人的な掘り下げに対し、革は団体や国家に当たり、破壊し、捨てる、掃除をする、今までずるずると因習的にやってきたのを思い切って改める。そこで革の字を「あらためる」とも読む。

 

 大久保利通はついに廃藩置県を断行し、日本を封建制度から解放した後、自ら欧米に渡りジカに見聞きしようとする。その前に目障りな栄一の改正掛を難癖をつけて潰す。

 

 現代はどうだろうか? 岸田文雄新総理は令和の所得倍増をやると言うが、世論も株価もあまり反応していない。衆院選前のパフォーマンスと見る向きが強く、人事も旧来のやり方からあまり変わってないと思われている。

 

 萃→升→困→井→革を行ってこそ、次の建設的な鼎(てい)となる。戦後日本を軍事路線から通商路線に変えた立役者の吉田茂安岡正篤に師事した1人だが、吉田学校をつくって新人議員を多数当選させ、まだ1年生議員の池田隼人を大蔵大臣に抜擢し、その池田が首相となって所得倍増を成功させた。