草分け中

試論や試案のサブサイト。メインは「状態の秘法」合知篇(深く)鼎道篇(広く)等

ホルストの実験を視覚の話以外にも広げてみる。

 脳科学が盛んな昨今だが、私は脳だけに焦点を絞る見方には疑問がある。身体の各器官から脳までの関係や、器官の周囲にある環境も含む全体を見ている。

 

 その見方を支える根拠の1つが、フォン・ホルストという科学者のハエと筒を使った実験である。実はホルストがこの実験結果を発表するまで、「目の前を左から右へ通過するモノ」と「動かないモノの前で自分が首を左に曲げる」場合の、どちらも眼球上では同じことが起きているのに何故ヒトが正しく両者を見分けられるのか科学では説明できなかった。

 

 ホルストは、内側に縞模様を描いた筒の中にハエを入れて回すと、ハエは縞模様を追って飛んだ。平凡社の「カラー生物百科」第4版のイラストがこれである。

f:id:reigan3941:20200911082415p:plain

 次に、ホルストはハエの頭を切って180度逆にして付け直し、同じように筒を回してみた。普通は逆に飛ぶのではないかと思うものだが、なんとハエは同じ方向にもっと早く飛ぶようになった。何故そうなるのか? ホルストはこう考えた。体内の各器官に指示を出す中枢部分と、眼球や網膜などの知覚器官との間にもう1つ重要な項目がある。モデルを使うとこうなる。

f:id:reigan3941:20200911083227p:plain

 図の一番下が器官、一番上が上位中枢、次が下位中枢。上位と下位の違いは今回端折るが、中枢からの指示が降りてくる一方、器官からの情報が上がる、その間のマルがついた部分を大脳辺縁系という。

 

 本では「大脳辺縁系のコピー」という言い方をするが、例えば「動かずジッと見ろ(コピーはゼロ)」という中枢からの指示と、「眼球上を左から右へ通過するモノ」との視覚情報があると、コピーゼロにプラスされるので目の前を左から右へ通過しているという正確な情報が中枢へ上がる。

 

 一方、「首を左へ振れ(コピーはプラス)」という指示に、「目の前にある動かない(ゼロ)モノ」を見れば、コピーとの差ができる。しかしハエの頭を180度逆につける例の場合、プラスにプラスが重なって飛び方が加速されるのである。

 

 この話をきっかけに私は人間も上位中枢(大脳新皮質)、下位中枢(意識や感情)、大脳辺系、各器官、そして環境世界の5項目に分けて考えるようになったが、30年以上もの間、視覚に関することしか思いが及んでいなかった。

 

 実は視覚以外にも、嗅覚や聴覚などの五感にもホルストの話は転用できる。実験方法はともかく、例えば「ニオイが次第に薄れていくこと」と、「歩いて遠ざかることでニオイが薄れていくこと」の2つは上記の2つと重なる。聴覚も同様に「音が次第に聞こえなくなること」と「歩いて遠ざかって音が聞こえなくなること」の2つがある。

 

 これらも大脳辺系のコピーという考え方であっているのかどうか? ただ自分というカラダ本体がそこにあるか遠ざかるかという話にはなる。

 

 次にこう考えた。「急な下り坂のため足が前に出てしまうこと」と「平坦な道を歩くこと」の2つも上記と重なると。

 

そして、本ブログの根幹でもある衣食住の食に移り、「食べずにお腹がへること」と「運動してお腹がへること」の2つと、「食べて肉がつくこと」と「運動せず肉がつくこと」の2つ。どちらも上のモデルで説明がつく。運動しろ、運動するなという中枢からの指示と、空腹や肉がつくなどの情報があがることの差で正確な情報を中枢へ上げるのである。

 

  さらに、衣食住の住の場合、「自主的に集団から離れて孤立すること」と「集団に離れられて孤立すること」の2つと、逆に「自主的に集団の中に入ること」と「集団に群がられてその一員になること」の2つ。

 

 とりあえず今回はここまでとしたい。結局「自分とは何か?」「人間とは何か?」「生命とは何か?」「人生とは何か?」といった質問に上記の考え方は従来とは違った解答を提供してくる。それは次回までにまとめておきたい。

 

  前回は「混沌の世界に初めて中心をもたらした」意義しかなくすぐに消えた天之御中主神(アメノミナカヌシ)をこの部分に相当すると考えたスライドを公開した。