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循環史家が説く脱循環史観

 法務大臣経験者が選挙違反で逮捕され、今の安倍総理を沖縄の海で2時間攻撃され続けて沈んだ戦艦大和に例えるコメントもあった。普通は2時間ももつ戦艦はないらしく、それだけ大和が戦艦としてはある意味最強だった証明になるが、他のコメには「安倍は大和ほど最強ではない」とか「安倍より適任はいるのか?」、「大和はその後復活してイスカンダルに行った」等というものもあった。私はそこに、「大和がボコボコにされている一方で敗戦後の日本を建て直すことになる吉田茂白洲次郎、池田隼人などが見えない所にいた」と加えた。

 

 そんな思考をするのは、私が"循環史観"論者だからだと思った。歴史が循環すると説く人は今も昔も決して多くはないが、過去には大哲学者プラトン明治維新の志士たちが読んだ「日本外史」の著者、頼山陽など、結構アタマが良い人が多い。逆の直線史観を説く人にも終末思想のアウグスティヌスや「大日本史」の水戸光圀などがいるが、今の日本史の教科書の構成は頼山陽を参考にしているという。

 

 世界最古の1万6千年前から土器を作った縄文時代から始まって、稲作の弥生時代、オオキミや古墳で知られる大和時代奈良時代平安時代鎌倉時代室町時代、江戸時代、そして明治から昭和20年までと戦後の現代に続く。各時代の間には、決まって動乱があり、簡単に言えば長期政権と短期政権が交互に繰り返している。詳細は長いので今回は省くが、螺旋状にしたものを大学時代の友人に見せると、「それは日本が島国だからであって今の国際化した時代には循環はしないのでは?」と返された。

 

 ならばと今度は、「なぜか長期政権の各将軍や執権は15代で終わっているので、長期自民党政権も今の宮沢15代総理で終わる」と予言すると、サークルの皆に嘲られたが、結局その通りになって細川日本新党政権交代を果たした。循環史観は確かに健在していると確信を深めたものだが、問題はその後である。細川総理はすぐに嫌になって政権を放り投げ、続く羽田、村山政権も酷い有り様で結局また自民党政権に戻ったのである。これをどう見るのか? 循環史観では分からないし、短期政権から長期政権になったような感じもせず、やがて橋本、小渕、小泉、安倍の後に鳩山、菅、野田が政権交代となり、もう循環とは言えなくなった。

 

 ここで話題を変えてアメリカはどうだったかというと、面白いことに歴代大統領のキャラクターがなんとなく日本の長期政権の将軍や執権と似ている。初代ワシントンと尊氏、家康とのカリスマ性、3代目ジェファーソンは独立宣言の作者なので鎌倉3代執権で御成敗式目北条泰時、江戸時代の武家諸法度の時の3代将軍家光、安保改正の岸信介と被る。5代モンローの時は"好感情の時代"と呼ばれ、これも鎌倉5代や徳川5代、佐藤栄作の雰囲気と似ている。更にどの日本の長期政権も7代から8代に変わる時に元寇時宗応仁の乱の義政、吉宗の改革、オイルショック福田赳夫などターニングポイントを迎えるが、アメリカも7代ジャクソンの強権ぶりから8代アダムズの改革路線に変わった。

 

 ではアメリカ大統領も15代で終わるのかというと終わらず、16代リンカーンの時に国が2つに割れる南北戦争が起きる。北軍の勝者リンカーンは暗殺され、引き続き4年ごとの大統領選は続く。そして16の倍数の32代目に登場したケネディは、不思議なことにリンカーンとの共通点が多い。

 

  で、何が言いたいかというと、アメリカは建国時こそ基本制度を作ったり(3代)安定を目指したり(5代)、制度を見直したり(8代)と日本の循環史観的に進んだものの、今や「脱循環」ができているのではないか? それはアメリカが生んだ偉大な思想家、プラグマティズムのパースやサイバネティクスのウィーナー、政治学イーストンらの功績もあって適切なフィードバックを選挙や議会で適時行うことで脱したのではないか? 翻(ひるがえ)って日本では、アメリカほど選挙や議会が機能していないので、15代の法則は過去のものにはなったものの、明治中頃から昭和20年までのような混乱と似ており、良い意味で脱循環ができておらず、今も深刻な末期症状を引き起こしている。

 

 ポスト安倍に挙手しない深刻な人材不足は各長期政権の末期がいずれも小粒だったことと似ているし、小粒なので判断は間違うしヨレヨレのガタガタでビジョンも提示できていない。このままでは再び信長のような革命家が立ち上がるか、国内ならまだしもダグラス・マッカーサーのような海外からの革命家を招いてしまう恐れもある。

 

 理想をいえば、現代の諸問題をしっかりと踏まえた上での高尚な新哲学を重視して将来ビジョンを掲げること。諸問題というより各ネジれと言った方がふさわしい。ブラック企業では生産力と手法とのネジれ、財政では総生産とその配分をめぐる不均等過ぎる(黒川や電通など)ネジれ、コロナ対策ではマスク着用をめぐる熱中症誘発とのネジれ、そして責任は痛感しても退陣しない安倍政権のネジれ。国際的にも中国と香港、韓国と北朝鮮などネジれているものが多い。もし今後よくなるとしたら、これらのネジれ当然過去のものになっている。