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(米朝戦争) 多vs少の必勝パターン

 北朝鮮関連のニュースが日毎にキナ臭くなってきた。戦争が起きる確率が高まったという話もある。ではどんな戦争になるか? 北朝鮮の軍はミサイル以外は陸海空とも全て使えないが、逆に言えば決して多くない軍事予算の大部分をミサイルだけにつぎ込んできたのでミサイルだけは使えるとも言える。ただここでは、ミサイルの専門的な知識は抜きに、ただ過去の戦争史を紐解いて似たような状況を幾つか洗い出してこの状況を考えてみたい。

 

 まず言えるのが、これは「大軍」と「少ない軍」との戦いであること。戦争となれば大勢の人をかき集めるものだが、今回もアメリカを中心に世界中の国々が北朝鮮に対して包囲網を敷いている。古代でも例えば西からやってきたギリシャ軍に対してペルシャ王ダレイオスは大軍で対峙した。大軍側はたいてい横に広げて威圧するものである。この敵をギリシャ側のアレキサンダーはどう倒すか?

 

 詳細はウィキペディアガウガメラの戦い」を見て頂くとして、簡単に言えばアレキサンダーは左端と右端の騎馬隊を先ず前進させることにより、ペルシャ側の関心が左端と右端に注がれ、対応しようとしたために自然と中央部がガラ空きになり、そこへアレクサンダー率いる本隊が突入してダレイオス王を敗走させ勝利したのである。

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ガウガメラの戦い

 これと似たような戦いとして室町時代の「分倍河原(ぶばいがわら)の合戦」がある。西関東を治める上杉氏(犬懸上杉山内上杉、扇谷上杉など)の大軍に対して、東関東側は反乱を起こして死んだ関東公方の故足利持氏の遺児、若き成氏を擁立したものの合戦場所は西関東内、いかんせん兵力差があり過ぎた。横に広がった上杉の大軍を前に尻込みする諸将に対し、成氏は中央突破を命じる。なぜなら、敵指揮官がいる本陣の前に配置されたのは、前哨戦で討ち取った犬懸上杉憲秋の家来たちの軍だからだ。左翼も右翼も強い中、ここだけが本来の指揮官がなく脆いと思われる。結果はその目論見通り、上杉の大軍は真ん中から崩され敗れた。

 

 「関ケ原の戦い」も同様で、数に劣る徳川家康率いる東軍に対して西軍は鶴翼状に各丘に陣を敷いて迎えたものの、東軍は真っ直ぐに中央の石田三成本陣に向かっていった。本来ならそこで左右から西軍諸将が攻め込むはずが、裏工作により小早川秀秋をはじめ多くの陣が動かなかった。結果、半日で東軍勝利が決した。

 

 家康にこの戦法を身をもって教えた人物こそ武田信玄で、若き家康が信長からの佐久間信盛率いる援軍とともに三方ヶ原にて鶴翼の陣を敷いたものの、織田と徳川との協力態勢ができていないことを見抜いた信玄はまっすぐに魚鱗の陣で突入しあっさり撃破した。

 

 このように、いかに相手が大軍であっても、やり様によっては中央突破で勝利を得ることは可能であり、北朝鮮も国連ではなくアメリカだけを相手に挑んでいるのは決して奇策でもなく、むしろ定石通りと言える。

 

 それでは大軍側の戦い方は何が定石なのか? 有名な「カンネエの戦い」では、ハンニバル率いるカルタゴ軍に対し、数で勝るローマ軍が突進してきて、これをまず名将ハンニバルは中央部の歩兵部隊で迎え撃つものの、徐々に退却させると同時に両翼の騎馬隊を前進させ、包囲が完成するとローマ軍を殲滅して勝利したというものである。

 

 包囲戦を得意としたローマ側の将といえば有名なシーザーがおり、ガリア戦争最大の決戦となった「アレシア包囲戦」では、敵城を中心に円状に塀や堀を築いて包囲するとともに、敵の援軍に対しても迎え撃つよう外側にも、つまり二重に包囲網を敷いて長期間対峙し、敵は降伏した。

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アレシア包囲戦

 日本でも包囲戦を得意とした武将に、伊勢や大坂をめぐる戦いでの織田信長豊臣秀吉が挙げられる。信長といえば「桶狭間の合戦」が有名だがこれは若い時の話で、大兵力を得てからの信長は敵城を柵で包囲して兵糧攻めを行う手堅い戦い方を得意とした。これは秀吉の三木城、鳥取城、高松城小田原城などの攻め方にも受け継がれた。

 

 ここで大事なのは、包囲する側は柵や堀、塀などの工作物も用いながら、隙間を完全になくさなければならないことである。そうすることで敵の兵糧は枯渇し、援軍への希望はなくなり、戦意を喪失して、降伏勧告に従うようになるのである。

 

 では現状の国際的な対北朝鮮包囲網はどうか? いまだ戦意が高いところを見ると、包囲に隙があるように思われる。最近アメリカは、北朝鮮に協力したハッカーや関係者を逮捕したりしているが、コンピューター的にもビットコイン的にも隙だらけで、ミサイルや核実験も、噂されているような中国やロシアが国ぐるみで露骨に援助しているというより、反アメリカ政府のアメリカ人や中東関係者などが関与しているのではないだろうか?

 

 こうした敵相手に隙間なく包囲するのは難しい。もちろん少なからず効果があるからこそ北朝鮮は怒っており、ミサイル開発をやめないのだが、包囲する側もただ非核化を言うだけでは何の効果もない。開発に関係する技術者や担当者が国内外にいる限り開発はやめないし、ますます進歩するし、やがてはワシントンにとどく核ミサイルを完成させてしまうだろう。

 

 ひと昔前の張りぼてミサイルがパレードに並べられていた頃に手を打っておけば良かったはずが、時間が経てば経つほど手遅れになっていく。長距離核ミサイルを持ってしまえば、上記の中央突破は十分可能になる。そこまで待ってよいのか? そんな武器をもってもよい国なのか? 機能不全久しい国連を含め、従来の方法、政治手法、考え方で限界があるのなら、世界は新しい考え方を採用し、新しい決まりを作って早期に対応するべきではないのだろうか?