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連合だけではなく、分断すべきことは分断する哲学(イギリス)

 イギリスが国民投票の結果EUを離脱した。と、先日書き出したところで、ある仮説が浮かび筆が止まった。

 EUとはヨーロッパ連合と訳すが、イギリスという国自体も連合国家である。離脱したことでアイルランドスコットランドなども影響を受け、イングランドと袂を分かってしまうとイギリスの国旗も今の形ではなくなるという。

 移民問題や金融への影響など詳細は池上彰が解説するとして、ここでは哲学の面から考えてみたい。イギリスを王政から民主主義政治に変えた「名誉革命」。その思想的支柱となったジョン・ロックのイギリス経験論哲学とは、社会科の倫理の教科書では帰納法という名前で皆知っている話だが、哲学上は「観念連合によって単純観念が複合観念に変わる」というものである。だから1人の王様の頭の中の複合観念より議会で練られた複合観念の方が勝る。そして王政を倒した。

 ロックの次に出てきたヒュームは、単純観念が、「類似、近接、因果」によって複合観念に変わると唱えた。例えば肖像画と本人(類似)、タバコと本人(近接)、煙と火(因果)。そして経済的にはより良い観念連合を促進する点から市場主義を重視し、これが12歳下のアダム・スミスに影響した。以後、英米系哲学はロックやヒュームを始祖として、ミルやスペンサー、マンデビル、パース、ジェームズ、デューイ、ハイエクフリードマンなどが続いた。

 このように見てくると、17世紀から続いてきたイギリスの「連合」哲学が、今回の連合離脱によって大きく変化したように見受けられる。

 私の以前からの主張は、そもそも連合があれば、分断もあるのではないか、というものである。類似、近接、因果の裏に、相違、遠隔、意外の観念分断があると。

 哲学研究者はそれを聞いても知らぬ振りをするが、非常に重要だと思う。連合論のバラ色的側面から、民主主義や市場経済大英帝国ヨーロッパ連合と進んでいったが、一方で分断もあり得るし、事実分断はある。

 分断にも良い面がある。分かりやすい例を3つ上げる。例えば句読点で多量の文章を分断すると読みやすくなる。食べ物も同様で、肉でも野菜でも切り分けると食べやすくなる。イベント会場前に来た大量の来場客を、何十人かずつに分断すれば安全に入口へ入れられるが、一度に入ろうとすると恐ろしい事故が起きる。

 このように、連合ばかりが良い訳でなく、分断すべきときは分断する。イギリスの結果からオランダをはじめ他の国も離脱に向けた投票などの動きが加速しそうだが、連合一辺倒ではなく、分断も進める。そのための哲学がここに紹介したものである。