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吉野源三郎から村田諒太へ引き継がれる正しき精神

 山根明会長が辞任した。

 

 引き金は元アマ金メダリストの村田諒太だという。若者が巨大な老害に立ち向かい、遂に倒したと言える。

 

 最近の休みの日の過ごし方は専らブックカフェだ。結婚前はよく言っていた漫画喫茶も、読みたい本がなくなってきた。地方では結構つぶれているが、ダーツやカラオケなどの他のアミューズメントと合体した店舗で生き延びたりしている。妻子が夏休みで帰省している現在、家や庭の清掃を済ませたら、気になっている書籍を読みにブックカフェに出かけている。

 

 ブックカフェの良いところは、図書館と違い今話題の最新刊があること、買って後悔したり、部屋を邪魔する量となったり、ゴミとなったりすることなく、2百数十円のコーヒー代で1冊まるごと読んでしまえることだ。

 

 呉座勇一著「陰謀の日本中世史」や吉野源三郎著「君たちはどう生きるか」も、ここで読んだ。

 

 陰謀の・・は、特に「本能寺の変」については以前このブログか別の媒体に書いた内容と全く同じ見方である。あれは陰謀など何も絡まず、単に信長の防衛態勢に隙があり過ぎたことから光秀が攻めていったに過ぎない。本能寺は京都で政務を行う信長がよく泊まった寺の1つであり、泊まる時には主な僧侶は外に出させられたという記述もある。これらの史料を見ず祖先の名誉を優先した明智憲三郎の活動には確かに無理がある。

 

 君たちは・・の方は、帯に村田諒太の推薦文があって驚いた。すぐにスマホを出して「村田諒太  君たちはどう生きるか  山根明」で検索したが、特に記事がヒットしない。

 

 しかし、この本が話題になった3月の時点で彼は読んでおり、その少し後に日大の田中理事長の問題が起こり、そして現在、ボクシング連盟の山根会長の問題が起こって「新アンガールズ」と騒がれている。

 

 つまり、村田諒太はこの本のどこかに特に感銘を受けて推薦文を書き、そして実行に移し、今日の山根会長辞任に至っていると言えるのだが、そこに触れた記事がないので、このブログに書こうと思った。

 

 「君たちはどう生きるか」の構成は明確に数個の部に分かれているので、読者がどの章を面白く思うかは分かれるとおもうが、村田諒太の場合、コペルニクスの箇所やニュートンの箇所でもなく、明らかに、山口や黒川のような「苛めっ子」の話を注目したとしか思えない。

 

 現実に、山根明は山口や黒川であり、北見が村田である。北見は勇敢に立ち向かい、殴り合ったりするが、主人公の本田コペル君は足がすくんでしまう。しかし後で激しく後悔し、叔父にそのことを相談し、お詫びの手紙を書く。ネタバレになるのでこれ以上書きたくはないが、山口や黒川は結局そのままでは終わらずに制裁を受ける。

 

 著者の吉野源三郎がこの本を書いた少し後、第二次世界大戦が発生し、敗戦後、焼け野原から日本を復興させた主な中心は、吉田茂三木武吉らの下で積極的に動いた、池田隼人や佐藤栄作らの若手官僚出身の政治家たちだった。

 

 そう考えると、吉野が伝えたかったことは、戦前すぐには現れなかったものの、戦後の若者たちが、先輩の公職追放後に主導権を握った時に十分に発揮されたのだと思える。

 

 そして現在、あの時と同じ不安に包まれた国内の雰囲気の中で、池上彰が推薦し、漫画家され、ベストセラーとなり、我が子も読むか分からないが親たちが子供らの目の届くところにこの本を並べ、いつか読み、やがて今の村田諒太のように老害たちに立ち向かったりするのだろう。

 

 立派な人間とは何か? 簡単には言えない。しかし、新入社員を苛めるベテラン社員、引っ越してきた住人を苛める村八分、そういった現象を黙って見て見ぬフリをするのではなく、しっかりと声を上げて改善する人間は確かに立派である。

 

 このような内容が「君たちはどう生きるか」であり、共鳴する読者の多さは事態の深刻さを表す一方で未来への希望にもなっている。いまだ苛めっ子となっている学生や社員や住人はこの本を読んでいない。

 

 最後に大河ドラマ西郷どん」に触れておくが、この主人公もそういった他人の痛みが分かる人物である。